自分の毎日はこんなふうに過ぎていく。悪い意味ではなく、年齢とともになんとなく自分に合うライフスタイルが出来あがってくるものです。とはいえ、予期せぬいろいろなことがやってくるのが人生。
1日のなかで仕事と人間関係と、趣味と癒しの時間を自分なりのバランスで配分して過ごしていても、突発的なことに時間をとられ乱されてしまうことはあります。
ここ数カ月の私もそれで、慣れない環境におかれ睡眠時間も十分にとれずに自分がただ忙しい空気にふわふわと浮いて帰る場所にきちんと帰れていない、そんな心持ちでした。
そんな状態では大好きな読書もあまり進まないものですが、書店で江國香織さんの文庫の新刊を見つけ、すぐに読み終え、あー、やっぱりいいな、好きだな、としみじみ実感してしまいました。
江國香織『川のある街』(朝日新聞出版)です。

本作は、川のある街を舞台に、子ども、カラス、認知症のある高齢者の視点を中心に進む、3つの中編小説から構成されています。
特に大きな事件が起こるわけでもなく恋愛要素もほとんどありません。ただ日常が綴られているのですが、世界というのは、こんなにもいろいろな視線が混じりあってつくられていて、あなたの見ているできごとはこんなふうに見えるのかもしれないねって、やさしく教えてくれるのです。
江國さんの小説の主人公たちは、あまり怒りというものを持っていないように思います。理解できない相手の行動も、そうなんだと受け止め、どうしてだろうと疑問に思うけど、批判はしない。自分の行動が人に受け入れられなくても、でもしょうがないのだと。
やさしいことばとことばの行間、語られないことの奥に広がる世界。江國さんの小説の魅力のひとつですよね。
代表作として語られるような一冊ではないかもしれないけれど、固くこわばった土を柔らかくしてくれる腐葉土のような、心に隙間を作ってくれるあたたかい物語です。
ここにいる、と自分の存在を思い出させてくれる。そうすると、自然とちょっとマッサージでもして自分をいたわってあげようかな、という気持ちもわいてくるのです。


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